ここに掲載していいものか,かなり迷ったお話ですが,是非みなさんにも考えて頂きたくてアップしました.
前回同様,余計なレイアウトを外した状態でお届けします.・ Wed. 06/23/1999 「バイスタンダー(bystander)」の役割
少し(1ヶ月ほど)前の話になる.
立て続けに二人,溺水の子供が搬入されたことがあった.2才の女の子と,3才の男の子,いずれも自宅の浴室での転落,溺水である.
2才の女の子は,両親が浴槽内で発見,引き上げたあとそのまま自家用車で搬送された.搬送先の病院で約1時間にわたって心肺蘇生術(人工呼吸,心マッサージ)が施行され,なんとか心拍再開(停止していた心臓が再び動き出すこと)し,転送されてきた.しかし,瞳孔はすでに散大しており,脳神経系の回復の見込みはほとんどないと思われた.数日後ほぼ脳死に近いと判断された.
3才の男の子の親は,子供が浴槽内で浮いているのを発見し,ただちに引き上げ,救急隊の出動を要請した.救急隊は現場到着後直ちに心肺蘇生術を開始した.そして初期搬入先の病院で心拍再開し,こちらへ転送されたのである.このとき心肺の機能は回復していたが,自発呼吸(自分の力で呼吸すること)はなく,脳には深刻なダメージが生じているものと思われた.
もうひとつ,こちらは他の救急病院での話である.
生後5ヶ月の男の子が心肺停止状態(心臓が停止し呼吸もしていない状態)で発見された.こどもが仰向けの状態で寝ているのを母親が確認したあと外出し,1時間後に帰宅したときにはうつ伏せで心肺停止状態だったとのこと.
子供の状態(呼吸をしておらず,脈拍もないこと)を確認した母親は「直ちに」「自ら」心肺蘇生術を開始,救急隊の出動も要請した.救急隊到着後心肺蘇生術が続行され,病院到着時には自発呼吸はないものの,心拍は再開していた.そして,まもなく自発呼吸も再開,その日のうちに刺激をすると目をあけるまで回復した.
・・・・・
いずれも痛ましい事故であり,とくに最初の2例は医療従事者としても非常に辛い事例です.しかし,あえてこの3つの事例を紹介したのには理由があります.
表題の「バイスタンダー」とは,「その場に居合わせた人」という意味です.この3つの事例のような事故の場合,バイスタンダーの役割が非常に重要となることが多いのです.心肺停止状態に陥った人を救うには,できるだけ早期に心臓マッサージおよび人工呼吸を開始することが必要です.これには,「蘇生」という目的があることはもちろんですが,「脳に酸素を送り続ける」というもうひとつの重要な目的があるのです.脳は人間の体の中でも酸素を多く消費する臓器です.酸素が届かない状態が3分以上続くと,脳は不可逆的なダメージをうけてしまう可能性が高いのです.5ヶ月の男の子の母親は,「自ら」心マッサージと人工呼吸を開始しました.この母親の行動が,5ヶ月の男の子を救ったといっても過言ではないと思います.もちろん,浴室で溺れた二人の子供のご両親を咎めるつもりはありません.直ちに心肺蘇生術を施しても結果は変わらなかったかも知れませんし,まず第一に日本の現状として,心肺蘇生の知識の普及があまりにも遅れているからです.そして,その責任の一端は我々医療従事者にもあるでしょう.
心肺蘇生術は,決して特殊な技術ではありません.少しの知識と勇気があれば,だれでも施行可能です.この「バイスタンダーの役割」と「心肺蘇生法(救急蘇生法)」をすこしでも多くのみなさんに知っていただきたい,と切に願うのです.
みなさんへ 是非,救急蘇生法(人工呼吸,心臓マッサージ)のことを知っておいて下さい. 必要と思われるときは,ためらわずに救急蘇生法を行って下さい. もしものときに愛する家族の命を,あるいは人の命を守ることができるのは,あなたかも知れません. [日本赤十字社のホームページはこちら] [上記サイトの,「救急救命の知識」はこちら] ・・・
だいぶ気をつけて書いたつもりですが,言葉足らずなところもあるかも知れません.その点はどうかご容赦下さい.